2005年度夏紹介

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銀木犀

銀木犀を知っているだろうか。銀木犀は金木犀の原種で白い花をひっそりと咲かせる大きな木だ。見た目も金木犀より目立たず、香りも金木犀に比べるとおとなしく、近くにあってもなかなか気付かない存在だ。このお話では、男の子が人目につかない銀木犀の木を隠れ家にしている。そして毎晩家を抜け出し、銀木犀に登ってそこで寝るのだ。すると心地良さと気だるさから、夢と現実の間をゆらゆらとさ迷って行く。会話が少なく、想像力を掻き立てられる楽しい小説。

TUGUMI

暑い夏の訪れと、人との出会い。そして、気を許せる仲間と過ごす温かい空間。この限りある美しい時間を、惜しむように恋した日々。今にも消えてしまいそうな、そしてどこにでも行けそうな、足もとの小さな世界の大きさに心がしめつけられる。こんな季節はまたとないと感じながらも、もう一度この季節がめぐって来る予感がする。言葉では一言にしかならない出来事も、とても大きなものとして、大事に大事に胸の中の別世界にとじられている。

ロックンロールミシン

全てをリセットしてしまいたい。そんな風に思ったことがないだろうか。何が足りないわけでもないのに納得いかない。そんな二十代のぼんやりとした悩み。だから「らしさ」を求めて駆け抜ける。けど熱くならず、なんとなく。横道に逸れたりしながら、みんな自分のビートを刻んでゆっくりと進んでゆく。

GO

在日朝鮮人?在日韓国人?日本で生まれ、日本で育っても僕は日本人と呼ばれない。国籍なんてもので縛り付ける連中は片っ端から全員殴ってしまえ。狭い世界に縛られるのが好きな日本人。カッコ悪い。そこに "名前なんてどうでもいいじゃない" と言ってきたカッコ良い女の子と出会う。主人公の僕は "在日" であることをその子に言えないまま過ごす。主人公以外にもカッコ良いヤツがたくさん出てくる、体の中が熱く沸き立つ小説です。

国境の南、太陽の西

ある出会いが"僕"にとってかけがえのないものとなる。その人と出会い、別れたことにより、僕に何か決定的なものが失われてしまう。そしてそれは僕に限りない喪失感を与えることになる。時が流れ、幸せに生活するようになってもこの感覚を消すことはできない。日常と空想の間が曖昧になっていく。時を経て何度も読み返したなる本です。

パレード

マンションの401号室に、家族でも、友達でも、恩人でもない、ちょっとした知り合いが5人くらいで一緒に住んでいる。一緒に住んでいながら5人 "くらい" とは変な話だと思う。しかし、それは妙な関係のせいでもあり、また一緒にいるのにお互いに興味がない者同士だからでもあるのだろう。男も女も職業も目的も違うのだ。そんな奇妙なヤツ等がなんでもない日々を、自分の目的と快楽に従って生活していく。

蹴りたい背中

「仲間だもん」…なんとも嘘臭い。ただ同じグループなだけ。みんな調子いいことばっかりでうんざりする。でもやっぱり友達はほしい。そんな素直になりきれない高校生の女の子ハツが様々な矛盾と葛藤、そして憎愛をひろげていく。どのクラスにも一人はいるような無口な人。そんな人の気持ちが胸に迫る表現で描かれています。また、量、内容ともに初めて小説を読もうと思う人にも手がつけやすい作品だと思います。

少年アリス

舞台は学校。夜の学校に忍び込むと、何故か何かが待っている気がしてくる。それが楽しいことか怖いことかはわからないが。この話の始まりも夜の学校からだ。自分の気持ちにも人の気持ちにも敏感なアリスと、即物的で鈍感な親友、蜜蜂。二人の小さな探険が思いもよらない大冒険になってゆく。現実と非現実を行き来する感じが、どこまでも現実なのかわからない空間に引き込んでくれる、少年ファンタジー。

N・P

日本人が書いた英文小説「N・P」。これを日本文に訳した人が立て続けに自殺した。自殺した家族と恋人に残されたN・P。これが縁遠い存在であった彼らを引き合わせてゆく。怖いくらいに惹かれ合い、楽しそうに疲れていく彼ら。未来が決まっているかのように吸い込まれながら向かって行く、彼らのもう一つのシナリオ。場面の一つ一つが余りにも美しくて、余りに切ない。近視眼的な感情移入が見えない美しさを削り出している。

チルドレン

一つ一つの短編がうまく絡まり、一本の時間軸へ繋がるのが面白い。読み終えた時にいくつもの爽快感が込み上げてくる。中でも面白いのは、家庭裁判所調査官が子どもたちに騙されながらも、子どもの味方として子どもと向き合っていく様子だ。変わり者な調査官のちょっと真似できないカッコよさが、気持ちいいくらいに際立っている。笑いと驚きがたくさんあり、短編ごとよりも、全体を通して楽しみたい作品です。

少年法やわらかめ

少年(ガキ)にもわかる少年法です。法律の条文は、とても読む気にはならない難解な日本語を使っています。しかし、子どもを対象にした法律がわかりにくいとはおかしい。ということで、各条文をやわらかめに翻訳したのがこの本です。全然法律を知らない神保さんと、弁護士の伊藤さんの対話も等身大でわかりやすく、おもしろい。初めて少年法を見てみる人や、中高生にもオススメ。

うつくしい子ども

近所で起こった事件の犯人は主人公"僕"の弟だった。その事件のせいで、僕は他人から特別なもののように扱われるようになり、追い詰められていく。悲しみ、嘆くが14歳の兄は友人に助けられながらも弟の心の闇を探る決心をする。事件を加害者の家族という視点で描いた兄の成長の物語。柔らかな文体で、登場人物がとても魅力的に描かれています。

駆込み訴え

物凄い勢いで駆込んできた男が延々と自分の置かれた状況を必死に訴えます。無欲の美しさに惹かれて、男は主君へ忠誠と誓いの愛情を持って仕えてきた。しかし男にとってその美しさが崩れようとするとき、男は自らの手で葬ることを最大の愛情として、主君を売ることを決意する。愛情から始まった男の感情は次第に歪み、嫉妬と憎悪に苛まれ、全てが偽物であったと確信し、愛情は欲望へと変わっていく。このような複雑に変化する男の感情が有名な歴史人物に重ねて描かれています。