よしもと ばなな

文庫本キッチン
キッチン
単行本版も参照

人の死が残していく、深い悲しみ。その悲しみをどうやって越えて行くかを描いています。焦らず、時間をかけてゆっくりと。会話や情景描写は気持ちを重点にして流れていくので、表現にその時々の気持ちが色付いています。そして驚いた時や嬉しい時、悲しい時などの表現も独特で、後から沁み込むような感覚が得られます。だから初めは合点の行かないことも、読むに連れ共感でき、物語の人物像が見えてきます。相手の気持ちを察し、重ねることで、疲れきって霞んだ現実に、救いの奇跡が暖かく吹き込んで来ます。

文庫本N・P
N・P
単行本版も参照

日本人が書いた英文小説「N・P」。これを日本文に訳した人が立て続けに自殺した。自殺した家族と恋人に残されたN・P。これが縁遠い存在であった彼らを引き合わせてゆく。怖いくらいに惹かれ合い、楽しそうに疲れていく彼ら。未来が決まっているかのように吸い込まれながら向かって行く、彼らのもう一つのシナリオ。場面の一つ一つが余りにも美しくて、余りに切ない。近視眼的な感情移入が見えない美しさを削り出している。

文庫本TUGUMI
TUGUMI
単行本版も参照

暑い夏の訪れと、人との出会い。そして、気を許せる仲間と過ごす温かい空間。この限りある美しい時間を、惜しむように恋した日々。今にも消えてしまいそうな、そしてどこにでも行けそうな、足もとの小さな世界の大きさに心がしめつけられる。こんな季節はまたとないと感じながらも、もう一度この季節がめぐって来る予感がする。言葉では一言にしかならない出来事も、とても大きなものとして、大事に大事に胸の中の別世界にとじられている。