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魔王
→文庫本版未発売

おまえは戦わないのか?――そう問いかけてくる物語だ。世界を諦めた大人や、大人に失望した子ども、未来を担う全ての人に、それでいいのか?と投げかけている。主人公の特徴でもある「考えろ」と何度も自分に唱えている様子や、一人の政治家によって人々が一斉に動いていく様子は、力強さと恐怖を同時に感じさせる。物語にある、全体主義の原義とファシズムの境や、国民投票による憲法改正の意義と危険性など、扱われる内容は決して簡単なものではないが、物語性が失われていないために面白く読みやすい。象徴的に描かれている魔王の存在に気付いた時に、自らの意志と覚悟が問われる。

宇宙のみなしご
文庫本版も参照

中学生くらいから自分たちで遊びを考える、ということは減ってしまうのかもしれない。この物語に登場する姉弟も小学生の頃までは自分たち独自の遊びばかりして遊んでいた。それがお互い中学生になって自然とやらなくなってきた遊び、それを久しぶりにやることになる。ほんの思い付きで始まった他所の家の屋根にこっそり登る「夜中の屋根登り」。スリルと闇と星を満喫できる新しい自分遊びだ。この遊び、初めは二人の秘密だったが、ある決意を持って飛び入り参加するクラスメイトたち。自分たち姉弟とは少し参加する意味合いが違う仲間との友情の物語。

風に舞いあがるビニールシート
→文庫本版未発売

6つの優しくてやわらかい日常が描かれた短編集です。全体として、物語に大きな浮き沈みはないのですが、登場人物の日常の中で、元気の出るひと時が描かれています。また同様に、物語の始まりから終わりまで、基本的に登場人物の生活や日常が変わるということもありません。変わらない生活の中で、あらためて喜びを感じたり、まだやれる、などと、ちょっとしたきっかけで登場人物たちに元気が湧いてくるのです。それぞれの大切なものを通し、小さくても確かな仕合せが伝わってきます。

カラフル
→文庫本版未発売

楽しく優しい言い回しで、生まれてきた人みんなに道しるべをしてくれるような作品です。人生いろいろですから、時には迷ったり、時には絶望したりもします。そのまま死を選んでしまう人もいます。この小説は、そうして死んでしまった人の続きを主人公がするというお話です。主人公は自殺をした真の魂を引き継ぎ、真として過ごします。そして、真に見つけられなかった道しるべに触れていくことになります。面白いのは、主人公の選ばれた理由が、抽選で当たったからであり、しかも、当たったら辞退はできず、行き先も選べない、また、途中でリタイヤもできないという部分。どれも人が生まれて来ることによく重なっているように思えます。

ゴールド・フィッシュ
文庫本版も参照

ゴールド・フィッシュはリズムに続く物語であり、今度はさゆきの将来への不安を中心に描かれている。2年近くが経ち、中学1年だったさゆきは3年になり、さゆきの周りもそれぞれに成長してきた。しかし、受験を控えたこの時期に、さゆきは自分の将来の夢を失いかけてしまう。それは「真ちゃんはあたしの、夢そのものだ」とまで思っていた、真ちゃんの夢が揺らいでいるからであり、自分もまた、本当にやりたいことを見つけられないでいるからだ。そして見えない自分に、戸惑い、うろたえ、焦り、イライラして、逃げ出そうとしてしまう。そんな不安と戦いの中、3匹の金魚が自分たち3人とどこか重なり、自分らしさを取り戻してゆく。

リズム

変わらないものは貴いが、変わってしまうことを恐れることはないんだ、というメッセージが込められた作品。主人公であるさゆきが、環境の変化と、未来への不安にさらされながらも、どうにか戦おうとする様子が中学1年生の言葉で描かれている。ショックなことがあると、なるべく考えないようにしようとするさゆきは、とても素直で傷つきやすい。ずっと大切に思ってきたものが次々と変わっていくことで深く傷つき、自分を見失いそうになってしまう。そんな時、真ちゃんが教えてくれた自分だけのリズム。さゆきは変わっていく自分たちの未来に目を向けていく。

ショート・トリップ

森絵都さんが描いたショート・ショートというジャンルの、とても短い作品集です。題名の通り“旅”にまつわるトンチの利いた物語が数多く並べられています。一話のページ数はわずか3ページ。冒頭部分から一気にそれぞれの世界に引き込まれ、あっと言う間に終わります。当人たちは大真面目なのに、傍から見たらとっても滑稽、そんな笑える話や、最後まで謎に包まれた話等、内容は様々です。不思議な世界観が好きな人や絵本が好きな人にオススメです。

フライ,ダディ,フライ

娘のため、自分の誇りのために、一人のサラリーマンが喧嘩に向かう。相手は高校生の現役ボクサー。サラリーマンである鈴木は、弱い心に駆られながらも、偶然知り合った連中と秘密特訓することを決意する。決戦の日時は、一月半後。鈴木はその日までに生まれ変わり、勝利することを想像する。実際、話の流れや、人物設定に現実感はないが、上手く表現されているため、強引な展開も受け入れられます。身体を動かす楽しさや、悪者退治の爽快感が伝わってきます。

口笛吹いて

哀しいくらいに変わってしまった、憧れていた先輩との偶然の再会。ジュンペー、晋さん、と呼び合うこともできず、昔のようにカッコ良かった自分のヒーローでいてもらいたいと思うも、気持ちはすり抜けていく。負け続け、負けることに慣れ、ねじれた心は元には戻らない。現実の冷たさに、人はそれぞれ都合の付け方を覚えていく。そんなズルい大人に囲まれた中で、ただひたむきに練習する息子が輝いている。変わっていく寂しさと、負けることの口苦さの中に、変わらないものが仄かに光っている。

今夜は眠れない

この物語は主人公の僕が語る、苦くも温かい家族の物語だ。中学生である僕は本当なら知らずに済む家族の揉め事に巻き込まれ、憔悴してしまう。しかし、この主人公の良いところは、大人任せにしてしまいそうな問題に、自ら立ち会っていくことだ。僕はキレ者の友達と計画を練り、自分のこと、そして自分の両親の秘密を探っていく。物語は穏やかに絡んでいき、僕は徒労の末に、この世の情けというものに触れることになる。

ドミノ

様々に散りばめられたピースが意外な接点を持ちながら物語は進みます。それぞれの思惑が交錯し、思いもよらない展開に巻き込まれ、それが繋がっていきます。そのために皆、誰かが誰かを捜し、またその人が誰かを捜し、またまたその人を捜して行く、というような、明快で愉快な展開をします。また、登場人物は多いのですが、かなりの変わり者揃いで、誰だか忘れることもなく読み進められるところも好感が持てます。深く考えず軽い気持ちで読める小説です。

月魚

私ほどあいつを必要としている人間はいない、というお互いの想いが錯綜し、双方で身動きが取れなくなっている瀬名垣と真志喜。お互いを必要としながら、瀬名垣は真志喜に、真志喜は瀬名垣に負い目があるため、二人の関係は独特に軋んだまま十年以上経ている。しかし、その関係も既に破綻を来しており、徐々に一点へと向かうべく変化し始める。満月の夜にだけ現われると言う池の主と、二人の奥深くに沈む心情が重なり、最後は美しい結末を迎えます。物語では流れ方がとてもしなやかで、二人の暗黙の了解とも思える様々な言動は非常に読み応えがあります。

ダス・ゲマイネ

今ある人の世を独特に風刺した作品です。どちらか選ばなければいけない二択がどちらも間違いだったらどうするのか。人が何かをするとき、間違っていてもやらなければならないことが常にあります。この小説の人物は皆、どちらも選べない、そんなジレンマに悩んではぶつかり、人や世間を横目に見ながら、そんな自分をもせせら笑うかのように振舞います。やること全てに価値を認めず、傍目だけに気を遣って過ごします。皆、心の居場所を持てず、好き勝手に持論を繰り広げます。

熱帯魚

この物語は仮設便所の中から始まります。換気が悪く、むし暑い中、紙がないため軽い監禁状態に陥った主人公の大輔がそこにいます。しかしそこに知り合いが通り、大輔は紙をもらうことができ、やっと苦しい仮設便所の中から解放されるのです。この小説には、このような監禁と解放が姿を変えて度々著されています。題名の熱帯魚には、この二つの側面を持たせた上で、登場人物に喩えているようです。感情丸出しの大輔を通して、苦しさや淋しさから逃れようとしている人物が温度差を持って描かれています。

レキシントンの幽霊

大人が読む童話のような作品が幾つか収録されています。作品は設定・世界観ともに童話の傾きがありながら教訓めいておらず、とても読み心地が良いです。また、物語は軽妙に進み、衝撃的に終わることで、後味が強く残ります。それぞれの物語の内容は不思議さと、恐ろしさを合わせ持ち、深みがあります。霊的な恐ろしさとは違い、人が持つ残酷な部分や、喪失感などの恐ろしさがさらりと描かれています。

夏のこどもたち

独特な文体と細かい章によって、中学生のひと夏が描かれている。どこにでもいそうであり、どこか歪んでいる中学生たち。「夏のこどもたち」という題名からは爽やかなイメージを受けるかもしれないが、内容は少し濁っていて、心の内側からは黒いものも見受けられる。ぼくを中心として様々な中学生や大人が登場するが、どの人間からも本来の目的を失ったまま行動しているような怖さが感じられ、日常は曖昧に過ぎていく。しかし、そんな闇の部分を含めて、中学生の行動なのだろうと思わせる作品。

夏帽子

生徒の前に突然現われてはすぐに居なくなってしまう、旅人のような紺野先生の物語です。紺野先生が生徒に働きかけると、途端に生徒の瞳がパッと輝き出す、紺野先生はそんな魅力の詰まった先生です。臨時で赴任してくるため、短い時間ではあるものの、紺野先生は生徒と共に楽しく過ごします。授業時間よりも授業外の様子が多く描かれ、自然の中から不思議で楽しい多くのことを紺野先生は生徒に見せてくれます。溶けない氷や、クラゲの化石などを持ち歩き、自然の生態を語ってくれる紺野先生は、少し変わっていて、とても楽しい先生だと思いました。

空中ブランコ

「イン・ザ・プール」の続編という位置づけですが、どちらから読んでも楽しめると思います。前作同様、今回も病院の神経科に来た患者と、医者の伊良部との関わりが描かれています。今回は伊良部の大学時代の知り合いが現われたり、助手のマユミちゃんの新しい一面が見られたりと、前作を読んでいる人は物語と共に登場人物でも楽しむことができます。軽快な文体と医者とは思えない大胆な行動は読んでいて面白く、爽快です。伊良部先生の相変わらずの突飛な行動に魅了されました。

ぐるぐるまわるすべり台

何かを始めて、それを止めて、また何かを始める。この物語はこうして繰り返す日々の一部が切り取られて描かれています。今までをストップし、4月まで塾でアルバイトをすることだけを決めた主人公が、塾には来る不登校のヨシモクを教えながら新生活を始めます。そのうち今度はヨシモクの名で自分のバンドを作ろうと考え、バンド作りをしながらまた次を始めます。そうして一つ一つ何をするか決めることで、あちこちで新しい物語が動き始めます。初めは少し読みにくくも感じましたが、繋がると面白くなってきました。

青空のルーレット

夢を追いかける男たちの物語です。みんな夢の追いかけ方は違っていて、夢に近い所で追いかけている人もいれば、夢から遠い所で夢を追いかけている人もいます。この物語はどちらかと言うと後者のほうで、みんな狭き門に向かってやりたいこととは別の仕事をしながら夢を追っています。彼らは一時的に窓拭きという、夢の狭間を象徴したような、空と地面の間で行う仕事をしていて、危険と隣り合わせながらも青空を感じて働いています。人生に迷いながら、それでもみんな窓を拭き続けて、夢を見続ける。

きのう、火星に行った。

主人公の拓馬は、ひねくれもの、へそ曲がり、澄まし屋、そんな形容が似合う6年生(やる気なし)。特技はサボる事というだけあって、面倒なことや、くたびれることが大嫌いだ。そんな拓馬はいつも上手く手抜きをしながら楽に過ごしてきたが、九月最後の水曜日、拓馬にとって最悪な面倒くさいことがたくさん起きる。連合体育大会の選手に推薦され、断る暇もなく決められてしまう。しかしその大会の参加をきっかけに、拓馬は少しずつ本気になることの愉快な感覚を思い出し始める。

イン・ザ・プール

何らかの形で神経が尖ってしまい病院の神経科に足を運んだ患者と、そこで待ち受ける医者の伊良部一郎。この小説はここに訪れた患者と医者の様子の一部始終が描かれています。しかしこの伊良部という医者は、一体どこらへんが医者なのか分からない。たいして症状も聞かなければ、カウンセリングのような治療もしない。本当に任せて大丈夫なのか疑わしいのだ。患者は伊良部の「明日も来てね」という言葉に何となく従いながら、日に日に伊良部のペースに引きずり込まれていく。真剣に悩む患者と、全く悩まない医者の関係が笑いと清々しさを与えてくれます。

100回泣くこと

悲しいことがあれば、泣く。すごく自然だけれど、すごく不本意な行為でもある。泣いても何も変わらない、前に進まない、分かっていても泣いてしまう。この主人公は悲しさや、やるせなさを前に、どうにもならずに泣きます。そして自分の愛犬のためや、恋人のためにできることを探し、想いを巡らせます。主人公は泣き抜き、自分の気持ちと決別する。作中では、愛情が涙へと変わっていく様子だけでなく、喜びの時間が非常に綺麗な言葉で表現されています。

陽気なギャングが地球を回す

それぞれ得意分野を持つ4人のギャングが、鮮やかな手口で銀行強盗を行います。特技を生かし、素早く正確に作戦を実行する。しかし上手くいくと思われた作戦に想定外の邪魔が入り、雲行きが怪しくなっていく。4人は危険を承知で、自分たちの理念に従い動き出す。緻密な文章が個々の心情を引き立て、時に理屈に合わない人の心理を映し出し、意外な展開を広げます。仲間を想うギャングたちの悪を感じさせない魅力と笑いが詰まった作品。何よりもロマンを求める愉快な銀行強盗たちの物語です。

駆込み訴え

物凄い勢いで駆込んできた男が延々と自分の置かれた状況を必死に訴えます。無欲の美しさに惹かれて、男は主君へ忠誠と誓いの愛情を持って仕えてきた。しかし男にとってその美しさが崩れようとするとき、男は自らの手で葬ることを最大の愛情として、主君を売ることを決意する。愛情から始まった男の感情は次第に歪み、嫉妬と憎悪に苛まれ、全てが偽物であったと確信し、愛情は欲望へと変わっていく。このような複雑に変化する男の感情が有名な歴史人物に重ねて描かれています。

永遠の出口

幼かった少女が時を重ねて成長していく物語です。小学生だった少女は、中学生、高校生となり自分も環境も変化しながら大人へ近づいていく。でもそこには壁もある。環境が変われば別れが訪れるし、新しい出会いも言葉の響きほど甘くない。それでもその時その時で大切な人ができ、不器用ながらも心の居場所を埋めていく。少女の心はそれぞれの体験が少しずつ後を引きながら変化し、形作られていく。同じクラスメイトとの距離感や思春期のとげとげしさからは、子供と大人の間を揺れている様子が窺えます。また、今だからこそ解るが、当時では言い表せない気持ちを美化せず、当時感じたままに表現しているので、本当に一人の少女が映し出されて見える作品です。