太宰 治

文庫本走れメロス
走れメロス
→単行本版未発売

物凄い勢いで駆込んできた男が延々と自分の置かれた状況を必死に訴えます。無欲の美しさに惹かれて、男は主君へ忠誠と誓いの愛情を持って仕えてきた。しかし男にとってその美しさが崩れようとするとき、男は自らの手で葬ることを最大の愛情として、主君を売ることを決意する。愛情から始まった男の感情は次第に歪み、嫉妬と憎悪に苛まれ、全てが偽物であったと確信し、愛情は欲望へと変わっていく。このような複雑に変化する男の感情が有名な歴史人物に重ねて描かれています。
———「走れメロス」より、駆込み訴え

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今ある人の世を独特に風刺した作品です。どちらか選ばなければいけない二択がどちらも間違いだったらどうするのか。人が何かをするとき、間違っていてもやらなければならないことが常にあります。この小説の人物は皆、どちらも選べない、そんなジレンマに悩んではぶつかり、人や世間を横目に見ながら、そんな自分をもせせら笑うかのように振舞います。やること全てに価値を認めず、傍目だけに気を遣って過ごします。皆、心の居場所を持てず、好き勝手に持論を繰り広げます。
———「走れメロス」より、ダス・ゲマイネ

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メロスは激怒した。なぜなら王が人を信じられず、次々と人を殺していたからだ。メロスは王を排除しようと、短剣を持って城へ行くが捕まり処刑されることになる。元より覚悟はしていたが、唯一の家族である妹の結婚式だけは挙げておきたかった。メロスは自分と信頼し合っている友のセリヌンティウスを身代わりとして、王に3日の猶予をもらう。メロスは長い道のりを妹のため、友のため、苦難を重ねながら走る。人を信じる者と、信じない者の、心を試す闘いが繰り広げられる。
———「走れメロス」より、走れメロス

文庫本人間失格
人間失格
→単行本版未発売

人間をよく見ている、それも暗く醜い様を。そしてあまりに見透かしている。そんな男には白紙のような人にしか心寄せることができない。骨身を磨り減らすようにやり過ごそうとする男の目の前に、振り払おうとしても不幸が深々と降り積もっていく。どうしようもできない世の中と自分との整合性の欠如。人間の恐ろしさを一身に浴びて人生をおそるおそる歩む弱い人間が、窮屈な世の中に罪を問う。