芥川 龍之介

文庫本蜘蛛の糸・杜子春
蜘蛛の糸・杜子春
→単行本版未発売

悪事と言う悪事を働いた勘陀多が唯一した善い事。殺そうとした蜘蛛を見逃してやったことがある。そのことにより地獄で苦しむ勘陀多に好機がやって来る。それは銀色に光る極楽から垂らされた1本の蜘蛛の糸。その時、助かるか助からないかの窮地に立たされた勘陀多の人間性が試される。作品中の極楽から眺める御釈迦様の上品な雰囲気を持った文章が、地獄の深さと遠さを物語っています。
―――「蜘蛛の糸・杜子春」より、蜘蛛の糸

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目の前に忽然と現われた老人によって、杜子春は貧乏から突如大金持ちになります。すると友人が増え、祭り上げられる。しかしそれもお金がある時まで。杜子春は人の態度がお金のある時とない時で余りに違うことに気づく。やがて人間に愛想をつかし、仙人の道を志していく。だが、杜子春が選ぶ道は冷たい人間でも、仙人でもなかった。場面がくるくると変わっていき、天と底を体験する杜子春から学ぶことは多いかもしれません。
―――「蜘蛛の糸・杜子春」より、杜子春(とししゅん)

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子供である良平の小さな願い―トロッコを押してみたい。そんな良平のずっと夢見ていた願いが不意に叶ってしまう。良平はトロッコ押しの喜びを噛みしめながら進み、押しながら色々と想像してはまた喜んでいた。しかし突然、良平は現実に引き戻される。今まで散々歩いた道のりを引き返すことになってしまう。純粋な気持ちには、思い込みが過ぎたのだ。襲い来る絶望を前に、良平はただ走る。良平の願いが叶ったときの様子や、喜びがたちまち絶望へ変わる様子、ぶつけきれない不安のはけ口の様子、と一連の心の描写が秀逸です。そして大人になっても消えない、幼少に感じた人生の心細さが現実を象徴しているように感じさせます。
―――「蜘蛛の糸・杜子春」より、トロッコ

文庫本羅生門・鼻
羅生門・鼻
→単行本版未発売

羅生門に佇む一人の下人がいる。この下人は今にも餓死しそうな自分が、明日どう生きるかを考えているのだ。すると、下人はそこに気味の悪い老婆を見つける。そしてその老婆を見つけると同時に、下人は自分の中に強まってゆく感情をも見つける。下人の沸々と湧き出る微妙な感情の変化と彼を取り巻く情景を、時間を操るが如き描いた短編小説。